〜 川背の生まれる数年前 〜  すきのない究極の味を追求して全国を流れ歩く「流しの板前」(後の)川背の父と、人を喜ばせるための味を追求して場末の定食屋を手伝っている(後の)川背の母が出会う。  同じように味の道を追求する若い二人は結婚し、小さな定食屋を始めるが、すきのない厳しいプロの味を目指す父は、あたたかい家庭のぬくもりにひたり、しだいにプロとしての厳しさを失っていく自分に気づく。  味の道を捨てられない父は、再び流しの板前としての道を選び離婚。娘二人は、姉は母方、妹(川背)は父方にひきとられる。  川背は、まだ物心つく前(1才前後)で母と姉の記憶はなく、その後も何も聞かされなかったため、姉がいることは知らない。 〜 川背が中学生の時 〜  父と二人で全国を流れ歩きながら、しだいに味の道に目覚めていく川背。  ある日、いつものように究極の素材を求めて山へ入った父はそのまま行方不明に。警察の捜索でも見つからず、結局死亡届が出される。住み込みで働いていた料理屋で質素な葬式が行われる。  その後川背は、料理屋の夫婦の世話で中学を卒業、高校進学を勧められるが、父の意志を受け継いで流しの板前になる決意をする。  その前後、川背の姉もまた母の店を手伝いながら味の道に精進していたが、しだいに厳しいプロの味に引かれはじめていた。  母は、離婚した父と同じ厳しい味を求めはじめていた姉に、好きな道を選ばせる覚悟を決める。  が、「ふぐの肝も食わずに味の道は語れん」と豪語する客の話を聞いた姉は、母の留守中、店で出すために仕入れてあったふぐを無免許で捌き肝を食べて中毒死する。 〜 川背19才くらい 〜  板前としての腕にも磨きがかかり、いつものように「板前募集」の張り紙を見てフラっと定食屋に入る。  とりあえず賄い(まかない)として出された何のへんてつもない素朴な料理をなにげなく食べるが、今までに味わったことのない究極のおふくろの味にショックを受ける。  自分の力の無さを思い知り店を出ようとするが、一目見て我が娘と気づいた定食屋のおかみに引き止められ、その店で一から修行し直すことになる。  実の母とは知らずに、毎日楽しく愛に満あふれた日々を過ごす。(この間に姉とは知らずに、死んだ姉の話も聞く)  ある日、川背一人で買い出しに出かけた市場で何気なく聞いた話から、定食屋のおかみが自分の母であることを知る。  味のために死んだ父や、無免許でふぐを捌いて死んだ姉を思い、自分の進むべき道を見失っていたことに気付く。  置き手紙をして店を出ようとする川背に、全てを悟った母が「最初で最後の母の味」と、自ら握ったおにぎりを差し出すが「自分の進むべき道は厳しさの道」と、受け取らずに心で泣きながら出ていく。  味の道の奥深さを学んだ川背であった  ゲームの舞台は川背の深層心理で、ゲーム中のビジュアルは深層心理を映像化したものであり、いわば川背の(夜見る)夢のようなものである。  川背の心には、常に、満足に得られなかった親からの愛を求めて、すきま風が吹いているので、ずいぶんと殺風景な心象風景となっている。  川背の生活に、当たり前のようにのしかかる「味の道の模索」は、そのまま、魚との格闘という形で現れている。しかし、本来は自分自身との戦いであって、これは「海腹川背」のゲーム性が、まさに自分との戦いであることに通じる。