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日記 intime o'

おっきょの幽霊 2010/2/15(Mon.)
幽霊はしかして近視である。

一言も話せなかったまま二人きりになってしまった。
自分は相手から話しかけられてくれないと話せない質なので助かったのは
遂にヤツから話しかけたことだった。
「なあ、何でお前は何も喋ろうとしないんだ」
自分は反射的に
「話すことが何も無いんじゃないか。ハロー、ジョン。ハウワーユー?」
とソイツの近くに寄って返した。
「それで良いんだ。それは確かにお前の言葉だ。」
随分と変な事を言うもんだ、案外癖のあるヤツだと思った。
「いいか、重い物は下に沈むんだ。」
「ああ、そうだね」
とただ返事をしてソイツが風呂から上がるのをドアの前に立って待っていた。

「窓に誰か居る。」
声の主は女の子。ヤツの子供である、たぶん。実の所あまり分かってない。
窓を見ると、そこに女の子の肩から上だけが見えた。
女の子は天を見上げるように、いやしかし後方まで見えるほどに頭を反ら
せて、そして口だけを大きく動かして歌っていた。自分たちが歌ってる歌
に合わせて歌っているようだ。

幽霊は近視なんだ。
だから誰に教えられるまでもなく、音をよく聞こうとする。
「ああ、歌ってるね。」

---
同じ日、学校から帰ってくると、見知らぬ男が玄関のドアから自転車を担
いで出てきた。外には自転車が既に二つ立ててあって、最後の三つ目を出
してるようだった。自分と目が合っても少しも慌てず、(むしろ慌ててる
のは自分で)
「ここ、他にドアがあるだろ。そこが開いてて危ないなって思って」
意味が分からない。確信も無いのに『泥棒!』と叫ぶことで宣言して、捕
まえるのも間違っている気がして、盗まれた物が無いかをまず確認するこ
とにした。自分は
「ありがとう」
と言って家に入り、ドアを閉めた。外で先の男が
「謝られる筋は無いよ」
と返答したのが聞こえた。

家の内から玄関を見ると、確かに前左右の三方向に三つのドアがある。右
は普通に使っているドアでダブルロックである。左は簡単な鍵が一つある
だけで、ドアの向こうは小さな庭に繋がっている。男は恐らくここから入
のだろう。鍵を閉めた。前のドアには鍵がない。ただドアとドアを閉める
と隣り合う壁から紐がぶら下っていて強く結ぼうとしたら切れた。自分は
短くなってしまった紐を何とか結びつけ居間に入った。
 食器棚の小さな引き出しに入れてある印鑑が無事であることを確認した
。ふとその上を見た。ライターオイルと書かれた箱。その右に随分と小さ
なミシン。すぐさまおかしな点に気付いた。ミシンの縫う布を乗せる場所
から火が出ていた。ミシンを取り出し、火を手で押さえたり、息を吹きか
けたりして、なんとか消えた。自分の部屋に鞄を置くと、床の上にシーチ
キンの缶が二つ、開けられたのが置いてあるのを気付いた。中のシーチキ
ンは無くて、火が出ていた。左の缶からは小さく、右のは大きい。

この家を家事にしようとする者が居る。
自分はそのままの恰好で外に出た。
とりあえず、駅の反対側へずっと走った。大きな古本屋があったのでそこ
で少し立ち読みをした。古本屋にしては珍しい内装である。また来よう。
自分の恰好があまりにみすぼらしいのに今更気付いて恥ずかしくなって帰
ることにした。

帰り道は行きとは違う道を歩き、新たな発見を一つでも求めようとしてし
まう。歩いたことのない道を歩くと、行きたい方向から逸れた道を歩かざ
るを得ないことになってしまった。やたらと老人が沢山居る公園に入った
。大勢でなにやらやっており、ベンチに座ってそれを見てる老人もいた。
その中にさっきの自分の家から出てきた男がいた。黒い服でその公園には
似つかわしくない若さである。隣に座って公園を見渡した。向こうに見え
る道は自分が歩きなれた道だ。あそこから帰ろう、と考えていると、隣の
男とソイツの友人らしい老人達は立ち上がり歩き出したから自分も当然の
ようについていった。駅まで着き、軽食をとると言う。
「お前さんも一緒に食べるかい?お金ならどうせコイツが持つんだから」
と黒い服の男を指差した。
自分はもう帰りたかった。
学校の友人と学校以外で会う事を好まない自分である。

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