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日記 intime o'

丑寅除けの前夜 - tale 2010/2/9(Tue.)
勉強に行き詰って、なんだかヤケになった。
CDでビートルズを聴きながら通り道に仰向けになって寝た。曲が
"Can't by me Love"になった頃、金木が自分を見つけて、
「や、三時になったぜ。早く来いよ。」
と脇に新聞を挟んで言って来た。
自分もやや遅れてテレビの置いてある畳の部屋に入ると、もう金木はテレビ
を競馬の番組に合わせて前を陣取っていた。自分はその隣で脚を組んで座る。
ここの畳はよく見るとひどく汚いのを知ってから、横になって寝ることはや
めたが金木は新聞を枕にしている。パドックを見ながら左耳では
"Eight Days a Week"を聞いていて、そしたら何だか急に、焼きマシュマロが
無性に食べたくなった。マシュマロなんて食べたこともないのに。

マシュマロが食べたい。焼いたやつだよ?
金木とマシュマロを焼いて食べる計画を立てた。スーパーに行ってマシュマロ
が沢山入った大きな袋のやつを買おう。火は、一階にある(寮に備えられている)
ガスコンロで構わないだろう。あと串が必要だ。計画を食べているとますます
食べたくなった。

長い長い解説の後、あっという間のレース。人は3つ目のカーブにドラマを
見たか。自分はそれ所ではなかった。早く出かけようと金木を急かした。
「金を引かなきゃいけんから、ちょっと待ってろよ。」寮に住んでいると
手持ちにお金は基本的に置かないので、自分もお金を引かなければいけない。
とにかくマシュマロを買うという計画についてばかり話して階段を走って下
りた。寮では靴箱でしか会わないような友人がいる。そんな友人とであった。
「俺達、今から煙草を買いに行くんだ。」
と騒がしい中、自分に耳打ちしてくれた。なるほど、本来買えない物を買うと
いうのも、また計画のし甲斐がある。しかし、今はなによりマシュマロであっ
た。彼らのその後、どうなるかはこれからよく観察することにしようと思う。

すでに靴を履いて立っていた。金木の靴はどうも小さくて仕方なしに踵の箇所
を踏んでしまうような格好になっている。他人を笑う人では無いようにしたい
ので無視する。何故全く汚れてないのかは気になるが。恐悦至極。

少し離れて寮管理の事務があって、そこでお金を引く必要がある。古紙を裏紙
で利用した用紙に金額と名前と自分の寮番号を書いて、最後に右下の正方形枠
に拇印して、やたらと目付きの悪い事務員に紙を渡す。ここで大声で『お願い
します』と言わなければ500円玉で机を叩いて『お願いしますは?』と繰り返す。
そういうシステムになっている。廊下に続く奥には病室があって、勝手に入っ
てはいけない決まりであるが、身をかがめると事務員からばれない。金木が小
声で自分を諫めたが逆に手で金木もこっちに来るように示して病室に入った。
後藤がインフルエンザで寝ている。もう治ったと言っていたが、最低一週間は
休まねばいけないということで、まだ病室にいた。何かお菓子でも持ってくれ
ば良かったなんて話をして、早々に引き上げた。金木と後藤は気まずかったよ
うで、初めて直接の友人関係でなかったことを知った。どうも自分は友人の端
に存在するようなのだ。

十五分程歩いた所にようやくスーパーマーケットがあって、その二階が百円シ
ョップになっている。竹の串が三十本入ったのが売ってあって、これが丁度い
いと思ってそれと、一階で袋入りのマシュマロを買った。自分がお金を払って
外で精算をした。合計で400円と税が20円なので200円分受け取る。10円以下単
位の金額には一々拘らないのが自分達の間の美徳である。

寮への帰り道は距離が短いように感じる。大体話すことが無くなると走って帰る。
この大きな道路を横切る横断歩道を向こうに渡る必要があるが、この信号がなか
なか青になってくれない。金木は向こうにある理容店を見ている。自分も何とな
くそっちの方を見て、値段表と思われる文字を見て、自分の視力がどのくらいな
ものかを試したりしていた。数字のゼロは何となく見えた。

一階に備え付けられたガスコンロは一回十円である。一回の数え方が都合がよく
て、つまり火を点けてから、任意に消すまでが一回である。だから極端な話、コ
ンロを一日の最初に使ったものが十円を入れて火を点けてから夜まで消さなけれ
ばいいのに。「一回に住んでるやつがそれを担当すべきだ」なんて金木と冗談を
言いあってた。寮に到着して靴だけ履き替えるとすぐにコンロの前に立った。袋
を開けて、一人一本串を持つ。先にマシュマロを刺して、十円玉は金木が入れた。
マシュマロは火に炙ると周りがドロッと融けたかと思うと、そのまま固まった。
どの位熱いのか分からないので念入りに口をすぼめて息を吹くやり方で冷まして
食べてみた。意外に外は固まっていて、芯の部分はドロッとしていた。悪くは無
いと思った。串は一回使っただけでもかなり焦げて、4回使うと頼りなくなった。
マシュマロを10個程食べた頃、誰かがやって来た。そこでようやく、自分たち
が余りにもコンロを陣取り邪魔になっているのに気付いた。ただ、この時間にご
飯を作るのも珍しい。そいつは一言「邪魔だ」と言って、隣コンロでインスタン
トラーメンを作り始めた。こちらは一つのコンロの前に二人立っているのでやは
り邪魔だった。

あんまり食べていると飽きた。マシュマロが幾色しているのは飽きない為の工夫
なのだと思うが、味は全て砂糖の味である。自分は此処に来てようやく、焼かな
い通常のマシュマロを食べたことがないのを思い出して、そのまま食べ始めた。
金木も自分のようにそのまま食べ始めたが、ついに金木が「もう飽きたよね」と
洩らしてそのまま終りになった。残ったマシュマロは自分が持って帰ることにな
ったが、4階に着いて、すぐあるゴミ箱に捨てた。


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